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イラストレーションを描く人のブログです

ホールデン君にさよならを?

自分の口癖の一つに、「チキショウメ」というのがある。「畜生め」でも「ちくしょうめ」でもなく、カタカナのそれである。先日、いけすかないこと(スーパーで98円のバナナが売り切れていて298円のしか残ってなかったとか)があってその単語を連発していたら、夫に遂に見咎められた。

 

いわく「将来子どもが生まれて、真似をしたら良くないのではないか」ということだった。しかし「チキショウメ」にはれっきとした出典がある。野崎孝訳のJ.D.サリンジャーライ麦畑でつかまえて」だ。主人公のホールデン君が、God damn it! と呟くその訳語に当てられている。彼は高校やめて出てきたニューヨークで、何もかも上手くいかず、なかばやけっぱちに叫ぶのだ、チキショウメ、と。

 

どうだ、世界的名作・古典的翻訳で使われてる用語だから使って良くないはずがない、と堂々と夫に説明したはいいが、いまいち納得してもらえなかった。そらそうだ、聞く人にとってはただの差別用語である。

もしかすると、わたしはいい年こいて遂に愛すべき「チキショウメ」に別れを告げる時が来たのかもしれない。いつまでも、ホールデン君と一緒にこの世の不条理にフザケンナと中指を立て続けることはできないのだ。これが大人の階段を登るというやつなのか。

 

「…今後気をつける」と出来もしない約束をして、わたしは心の中でそっとつぶやくのだった。チキショウメ、と。